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虫が鳴いている
月夜の草原で
虫が鳴いているのを
聞いている
*
やがてかくじつに
だれもが
この世をあとにする
この世をあとにしても
虫が鳴いているのが
聞こえてくるだろうか
ちちちちちちちち
ちちちちちちちちと
虫が鳴いている
*
三郎太は
昼間大声で喧嘩をしてしまった
偉ぶっているやつが大嫌いだと言って
男に捨て台詞を吐いたのだ
よしんばそうであったとしても
それに腹を立てるくらいだから
三郎太だって
やっぱりまちがいなく偉ぶっているのだ
*
虫が鳴いている
耳を澄ますとやっぱり
ちちちちちちちちちちと
静かに虫が鳴いている
この世ではそうやって
感情が嵐のように高い波を立てる
波は収まったふうでいて収まらない
もうどうでもいいじゃないか
この世をあとにしようとしているときに
そんなことは
どうでもいいことじゃないか
三郎太はそう思うことは思うのだ
*
皆既月食が九時にはすんで
もとの明るさに戻った
どうでもいいことが
どうでもいいことになっていないことを
三郎太はこの夜もしきりに恥じた
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